知ってる人は原状回復工事を経験してる!
彼は一年前、念願のルーフバルコニー付き最上階の住戸を見事、申込最高倍率をものともせず抽選で当てたのである。
それが最近、話題がマイホームのことになると急にその表情を曇らせてしまう。
理由を聞くと、人気住戸の実態について興味深い話になった。
買った当初は、ルーフバルコニー付きに住めるというので、Nさんの夢は膨らむばかりだった。
小さな子供のちょっとした遊び場には最高だ。
たまには友達を呼んでガーデンパーティーを開いてもいい。
お気に入りの鉢植えを買いそろえてグリーンのコーディネートも楽しみたい。
夢を膨らませて買ったのに、後から管理規約とは別に使用細則という書類があることに気づいて細かに読み直したところ驚いた。
鉢植えはもちろん、ガーデン用チェアやテーブルなど、防災上、いっさいそこには物を置いてはならないというのだ。
それが規則ならしかたがない。
大人のための利用は諦めて、子供の遊び場として割り切ろうとことになる。
たとえば、どこのマンションでも申込が集中する、ルーフバルコニー付き最上階住戸というものがある。
これだって実情は、そうそう手放しで誉められたものではない。
当然、そういう人気の住戸にもそれなりの弱点があるわけで、それを承知で購入しないと、ここに登場するNさんのように後で思いもよらなかった後悔の念にかられることになる。
「そりゃしかたないですよ。
だってNさんちは最上階なんですから○下の階にくらべて外気に直接触れている壁面積が多い分だけ、断熱性能が劣るのは当たり前じゃないですか」最上階は壁だけでなく天井裏(つまり屋根)もつねに日にさらされているわけだから、他の部屋に比べたら夏は暑く冬は寒くて当然です、というのである。
「他のマンションの例では、上下左右とも他の住戸で囲まれた中間住戸よりも二倍以上暖房費が「何でもこの間ウチのカミさんが、同じマンションに住む奥さんと話をしていたら電気代の話になって、わが家の暖房費がほかに比較して一・五倍近く高いってことに気づいたんですよ」気になって分譲会社の営業担当者に電話で聞いてみると、アッケラカンとした答えが返ってき思っていたらそれにもクレームがついた。
住み始めてすぐに下の階の人からウルサイと苦情が出たのである。
どうやらルーフバルコニーの真下は下の住戸の寝室とリビングらしいのだ。
そんなことがあって以来、Nさん宅のルーフバルコニーは、毎月、けっして安くはない専用使用料を払いつつ、ただ部屋の中から眺めるだけのスペースになっている。
「ルーフバルコニーは自分の物として勝手に使えると思ったのがまず誤解だったわけです。
それにしても、バルコニーの床の遮音性や下がどんな間取りになってるかなんて、普通、購入前に設計図書を見せられてもそこまでチェックできませんよねえ」ところが彼が抱いていた「憧れの最上階」に関する計算ちがいは、それだけではすまなかったのだ。
かかっている最上階のお宅もありますから」こうまでいわれてしまうと呆れて何もいう気になれなかったそうだ。
さらにNさんの話は続く。
「それとね、引っ越してからどうも部屋全体がカビッぼいんで知り合いの建築家に相談したら、それも最上階ならではの原因があったんですよ」マンションは当然一階から順に建てていく。
施工したコンクリートを乾かしつつ、下の階から順に内装を仕上げていくわけだ。
ところが建設工事期間に余裕がないと、どうしても最後に施工する最上階は、コンクリートを乾かす間もなく内装に着手してしまうことがあるというのだ。
だいたいコンクリートは完全に乾燥するまでには三年以上必要といわれているくらいなのである。
コンクリートの性質にくわしい建築家にいわせれば、できれば一年以上乾燥させた後に内装工事には着手したいものだという。
けれども現実には、そういう理想的な工程で工事が進められているマンションは存在しないといってよいだろう。
分譲業者ができるだけ早く投下資金を回収するために、工事期間はギリギリまで縮められるわけだ。
それでも下の方の階はコンクリートの施工の後、内装の着手までに三、四ヵ月期間があくのが普通だからいくらかマシといえる。
問題は最上階である。
特に工程に遅れが出ているような現場だと、シワ寄せはすべて最上階の工事に集中してしまう。
その結果、コンクリート施工の直後から内装着手というような突貫工事で造られた最上階住戸も、世の中に珍しくはない。
Nさんのマンションもそういった突貫工事のツケが、すべて最上階に回ってしまったようなの2ラだ。
入居してからなんとなく部屋全体が湿っぽいなと感じていたら、あれよあれよという間に家中カビだらけになってしまった。
「まあね、電気代の件は諦めましたし、カビの件は分譲会社に文句をいって壁紙を全部張り替えてもらったんですけど、どうにもしょうがないのが水道なんですよ」Nさん夫妻が下の方の階にお邪魔して気づいたのは、Nさん宅よりも明らかに水の出の勢いがよいというのである。
マンションの給水は、道路本管から引き込まれた水道水を受水槽からいったん屋上に設置された高置水槽にポンプアップし、そこから下へ流れ落とす水圧を利用して各住戸へ水を供給する方式が多い。
つまり高置水槽との高低差が少ない分だけ、最上階の水の出の勢いは下の階に比べて低くなる場合もあるわけだ。
低いとはいっても役所の検査には合格しているわけだから一定の水準は満たしている。
それでもNさんは、微妙な差にいったん気づいてしまうと毎日シャワーを浴びるたびに気になってしかたがない、というのである。
「まあこっちも最初から、買うんだったら最上階って決めてたから誰にも文句はいえませんけどね。
それでも最上階にもこういうデメリットがあるっていうプロからの忠告は欲しかったですよ」そうはいっても、やはりルーフバルコニー付き最上階住戸にはそれなりの魅力がある。
値付けが多少割高でも、人気が高いのも事実だろう。
けれども、割高なのは分譲価格だけではない。
場合によっては、ロクに利用できもしないルーフバルコニーのための専用使用料や、下階よりも割高の光熱費を負担することになりかねないという覚悟も必要なのである。
こんな時代だから増殖するオーバーケマンション今年こそマイホームを買うぞ!このように意気込んでいる割りには、不動産広告の読み方さえたどたどしい人が多い。
近所のスーパーのチラシについては目を皿のようにして隅から隅までチェックするのに、こと不動産の広告に対しては、値の張る買い物にもかかわらず、案外そこに並ぶ言葉や用語について自分に都合のよいように勝手に解釈して納得してしまっている人が少なくない。
たしかに、どの業界にもその業界特有の用語というものがある。
そういう用語の意味が一般には分かりづらかったりすることが、なんとなくその業界への近寄りにくさへとつながることとなり、そのおカゲで無知な人がヤケドしないよう適度に注意を促すというような効果も生むわけだ。
ところが、不動産業界に目をむけてみると、もう少し事情が複雑である。
たとえば「完売」とか「先着順」、はたまた「公開抽選」や「公庫付き」というような言葉にしても、この業界の外にいる人にしてみれば、それこそ業界用語という認識などさらさらない。
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